スカンジナビアには、深海にひそみときおり海面に現れては漁船を水中に引きずり込む怪物の伝説がある。19世紀の中頃になってようやくそれが巨大なイカであることがわかってきた。海面に漂っていた死体が何度か発見されダイオウイカの存在が明らかになった。

クラーケン

 これまでにダイオウイカは世界各地の海で発見されているが、どのくらい大きくなるのかは定かでない。1882年頃にカナダのニューファウンドランドの海岸に打ち上げられた死体は全長27mもあったといわれる(胴の長さ9m)。またこれより10年余り前、ラブラドルの海岸に流れ着いた2体はそれぞれ24mと27mもあったとか。しかしこれらは信憑性の高い記録とは言えない。

1971年、イギリス北部で捕獲されたダイオウイカ
全長6.8m

1964年、ノルウェーの海岸に流れ着いたダイオウイカ
全長9m

全長(m)発見地備 考
18.9ニュージーランド(1887)胴の長さ2.4m、腕(Tentacles)が特に長かった(16.5m)
16.8ニューファウンドランド(1878)胴の長さ6.1m、推定体重2t
15.9Fortune Bay胴の長さ3m
15.9ラブラドル胴の長さ4.6m
14.3バハマ(1966)20世紀における最大の記録
13.0ノルウェー(1939)胴の長さ4.3m、胴回り3m、推定体重1t以上
11.3ノルウェー(1896) 
9.6ニューファウンドランド(1964)胴の長さ3.2m、体重150kg
9.5スペイン(1968)体重256kg
8.8ニュージーランド(1886)胴の長さ3m
8.2ポルトガル(1972)胴の長さ1.6m、体重207kg
7.2三浦半島(1930)胴の長さ3.6m
7.0インド洋南部(1874)胴の長さ2.1m


 英領フォークランド諸島沿海でトロール漁船が捕獲したダイオウイカ(8.6m)が、2006年2月、ロンドン自然史博物館で公開された(BBC)

 巨大なダイオウイカが深海で獲物に迫る姿を国立科学博物館が撮影し、英国の科学雑誌に2005年9月27日発表した。ダイオウイカの生態は謎に包まれており、本来の生息場所である深海での活動を撮影したのは世界初。
 窪寺室長らは、約1年前、小笠原・父島の南東沖で、餌とカメラをつけたナイロン糸を水深900mの海中に沈めたところ、ダイオウイカが針にかかった。イカは4時間にわたってもがき、腕を切って逃げた。推定全長8mという。
 ダイオウイカは動作が鈍く海中を漂って獲物が来るのを待っていると考えられていた。この映像は通常のイカのように腕を伸ばして獲物に襲いかかる瞬間をとらえており、意外に行動的であることがわかった(読売新聞)。
 2006年12月22日、国立科学博物館はダイオウイカを小笠原沖で釣り上げたと発表した。同博物館の窪寺恒己・動物第三研究室長によると、今月4日、小笠原諸島・弟島の北東約27kmの沖合で、水深約650mまで垂らした「たて縄」という漁具の針にかかった。胴体と短い腕を合わせた長さは約3.5m。成熟前の雌で、2本の長い腕は失われていたが、残っていれば全長が7mに達したと推定される。引き揚げてまもなく死んだ。(読売新聞)。
※ この時撮影した映像がテレビニュースで流されたことをわたぴーさんから知らせていただきました。


 2007年1月、島根県出雲市の田儀港で足を含めた全長6.73mのダイオウイカが見つかり、1月24日、研究のため東京・上野公園の国立科学博物館に運ばれた。
 イカは胴長1.35m、重さ70kg。出雲市の漁師、田中久義さんが23日夕に港に戻る途中、海面に漂っているのを発見した。既に死んでいたが、比較的新しい状態だったという。
 ダイオウイカは温かい海域の水深600〜1200mに生息。同博物館によると、沖縄周辺のイカが対馬海流に流され、日本海の水の冷たさで弱って浮いてきた可能性があるという(読売新聞)。

 国立科学博物館によると、日本海沿岸では通常2年に1匹程度しか揚がらないが、この冬は昨年12月からこれで4例目となり、担当者は「特異なことで、はっきりした理由はわからない」と首をひねっている。


 ロシアの動物学者ゼンコヴィッチ(B. A. Zenkovich)は1938年にマッコウクジラとダイオウイカの戦いを目撃したという。大きなマッコウクジラが1頭、彼らのすぐ近くの海面に現れた。その奇妙な行動がゼンコヴィッチの注意を惹いた。水面から体を半ば乗り出したかと思うと、まるで銛にでも撃たれたかのようにひっくり返った。よく見ると何か冠のようなものが、マッコウクジラの頭に被さっており、それが大きくなったり、小さくなったりする。
 ここで彼らは、それがダイオウイカの長い脚であることに思い当たった。マッコウクジラはダイオウイカを海面に叩きつけて気絶させようとしているらしい。それであんなに水面に身を乗り出してわざと転倒しているのだ。ゼンコヴィッチの一行がさらに接近した時、クジラはついに獲物を呑みこむことに成功した。
 これはロシアのヤ・ツィンゲル(動物学への招待、1957)からの引用だが、もし事実なら(ツィンゲルには疑っているふしはない)マッコウクジラとダイオウイカの戦いの唯一の目撃例といえるが。

 ダイオウイカの唯一の天敵はマッコウクジラ。雄のマッコウクジラは海中深く潜ってダイオウイカを探し、かなり大きなイカでも丸ごと呑み込んでしまう。シャチや大型のサメも水面に漂っている死にかけたダイオウイカを襲うことはあるが、習慣的に深海まで出かけてダイオウイカを捕食する動物はマッコウクジラ以外にない。
 捕獲されたマッコウクジラの口の回りや頭の皮にダイオウイカの吸盤の痕が残されていることがある。その中には直径13cmに達するものがあった。全長9.7mのダイオウイカで吸盤の直径は最大32mmだった例があるが、このマッコウクジラと戦ったイカはどれほど巨大だったか?
 まだ若いクジラにつけられた吸盤の痕は、クジラの成長と共に大きくなる。また、ダイオウイカは種類によっては体の割に大きな吸盤を持っている。さらにマッコウクジラに寄生するヤツメウナギの吸盤である可能性も高い。だから吸盤のサイズからダイオウイカの大きさを推定することはできないが。

全長(m)発見地備 考
19 ?インド洋(1950頃)ロシアの捕鯨船がマッコウクジラの胃の中から発見
約12オークニー(1972)16mのマッコウクジラが呑み込んでいた
12北太平洋(1964)体重204kg。ロシアの捕鯨船が見つけたとき、まだ生きていた
10.5アゾレス(1955)体重184kg。14.3mのマッコウクジラが呑み込んでいた
10.4マデイラ(1952)体重150kg。クジラの胃の中でまだ生きていた。

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